塾講師吉田のブログ

宮城県で塾講師をしています

内申重視は正しいのか?

大学入試ならともかく、事実上義務教育の延長である高校において、入試で内申が問われるのは至極当然だと思います。とはいえ完璧な制度など存在しません。入試制度もその都度、見直しが必要です。ここでは塾講師目線から現状の内申制度について色々と書いてみます。

 

【評価できる点】

①生徒に普段から勉強させることができる

地方の公立トップ校の場合、合格者ほとんどは平均評定が良く、入試の点数もかなり良い方が多いです。もちろん評定が悪くて入試の点数が良い、あるいはその逆の方もいるでしょう。しかし経験上そういう方はそれほど多くありません。

正確な統計的なデータがあるわけではないのですが、恐らくはまずまずの正の相関にあると思います。

考えてみると、内申点のために、定期テストで良い点数を取ろうと勉強し、授業にも積極的に参加し、提出物もきちんと仕上げて出すわけです、生徒に定期テスト前だけでなく、普段から「勉強させる」装置として内申は機能していると言えるでしょう。

 

②内申は地域格差を埋める

同じ県内でも、中心部に近い地域とそうでない地域があります。言葉は悪いですが、それぞれ都会と田舎と便宜上呼びます。都会の生徒達は塾へのアクセスが容易でかつ家庭が裕福である傾向があります。一方田舎の生徒達はその逆の傾向があります(あくまでも「傾向」です)。

ですが、内申点については都会の生徒達の方がやや低めに出されるのに対して、田舎の生徒達の方がやや高めに出されます。都会の生徒達は塾に通う方が多いので、定期テストの点数が学年全体で高くなります。それゆえ定期テストの点数が高いことが内申においてそれほどアドバンテージになりません。一方田舎では状況がその逆になります。塾に通う生徒が少ないので、定期テストの点数も学年全体でそれほど高くならず、定期テストの点数が高いことが内申においてアドバンテージになります。

また関連して、都会の中学での定期テストは難しいことが多く、田舎の中学での定期テストは簡単になる傾向もあります。そのため模試などのテストでは、普段から難しいテストで慣れている都会の生徒が学力上位を占めることになります。

以上をまとめると、都会の生徒は入試で点数が高いが内申は低い傾向に、田舎の生徒は入試で点数が低いが内申は高い傾向になります。

住んでいる地域や家庭の年収が、子供の学力に影響していることは、徐々に指摘されて始めています。内申を入試の点数に含めて考えることで、こうした地域による教育格差をある程度は埋めてくれている、と言えます。

 

【疑問点】

①勉強は何のためにするのか

そもそも勉強や学習は何のためにするのでしょうか?

内申制度は、もともとペーパーテストのためだけに勉強する、ということに対するアンチテーゼとして考えられたはずです。しかし現状では、「先生に評価される」ために生徒達は勉強せざるを得ないように思われます。「テストの点数のため」が「先生の評価のため」に変わっただけです。義務教育を始めとした公教育の目的が一体何であるのか、ますます分からなくなります。そうした目的のために勉強してきた生徒達が、大人になって自発的に何かを学ぼうとするでしょうか。

 

②主観的な評価

ペーパーテストは客観的な評価です。一方で内申はどうしても主観的な評価にならざるを得ません。学校の先生も人間なので、どうしても好き嫌いは生まれます。

ある生徒を一度「不真面目」と認識してしまうと、その生徒に対する評価は低くなりがちです。また、人前で話すのが苦手という生徒にとって、授業中に挙手して発言することは難しいです。しかしこれが先生から「授業に対して消極的」と認識される可能性があります。その生徒は懸命に授業に参加しようとしているにもかかわらず!

さてこれらは無視しても良いレアケースであって、内申の評価は、教師の先入観や偏見無しに上手く機能していると言えるのでしょうか。

「男子よりも女子の方が内申が良い」恐らくだれもが一度は聞いたことがあるでしょう。そうした統計的データはありませんが、もはや公然の秘密です。塾で教えている私も実際にそうした事例を見てきました。もしその男女差が偶然ではなく、統計上はっきりとした有意義な差があるとしたらどうでしょうか。この場合、少なくとも2つの解釈があり得ます。1つは、内申評価において「女子は元々優れていて男子は元々劣っている」とするもの。もしこれが正しいのならばスポーツや体育競技と同様に、男女別で競争しなければなりません。もう一つは、内申評価において「女子が不当に高評価され男子が不当に低評価されている」とするもの。もしこれが正しいのならば、男女の賃金格差と同様に是正されるべき社会的問題です。

上記のことはきちんとした統計データが存在することが前提の話です。本来であれば教育委員会がきちんと調査するべき事だと思います。現場の先生方の多くはきちんとやっておられると思います。でもどうしても主観が入り込むのは仕方のない話です。

 

私見

内申を高校入試に用いるのは基本的には賛成です。県によって多少の違いはあるとは思いますが、実は「内申をそれほど重視しない枠」が設けられていたりします。また上位校では内申の割合が3割で、内申のビハインドを入試のテストで挽回できる余地はそれなりにあります。内申には中学3年間の努力が反映されているという建前にはそれなりの説得力がありますし、高校が事実上義務教育の延長ということをあわせて考えると、内申無しで全て入試テスト一発勝負で決めるという考えは少し異常な考えだと思います。

とはいえその内申評価が、評価する側の先入観や偏見が完全に排除されているわけでもないし、男女間で明確な差があるのではないかという疑念も存在します。これらの問題について何らかの対策がなされていないようにみえる現状では、内申評価に対して否定的な見方をとる人が相当数いることは驚くべきことではありません。